10巻
10巻
B6版 p192
吉家(きっか)は「真霜(ましも)の転職は自分のためだったのでは」と思い、2人で話をする。辛かった時の記憶をなくしている吉家に当時の出来事を思い出させないよう、そして吉家の誇りを守るため心を隠す真霜。しかし真霜はあるショックな事実を知ることに…! 一方、吉家は平良(ひらら)との同棲で、仕事に充てる時間が減りモヤモヤしていた。そんな時、平良のパーティーに呼ばれ…。
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集英社マーガレットコミックス 2024年3月発売 桃森ミヨシ
10巻の感想
一つ目の神回21話が入っている10巻。「真霜がきっかと平良の同棲を知る」というショックもそうなんだけど、それ以上に
「きっかのことをどうやって支えてきたか」
という過去の経緯が明らかになり
真霜くんの思いの強さを感じられる素晴らしい回なんです。
ただ お前の心を 誇りを守りたかった
という真霜くんのモノローグは名台詞、名モノローグです。これ以上の愛があるだろうか。
物質、お金、時間。与えられるものは人によって色々あるけど、ここまで深く愛し、相手のことを理解した上でピンポイントに差し出せるものを私は見たことがありません。素晴らしいです。
単に一言「自信を取り戻させる」「やりがいを与える」とか簡単なことではない。
それをきっか自身の心で生まれてくるように、自分が持っている社会的地位や年収などを投げ出して、時間をかけて成し遂げた真霜くん。
こんなに愛してくれる人がいたら、人生絶対幸せになる。
真霜くんはものすごい俺様に見えて、実はすっごいギバーなんだよね。
そんな心をまだ知らずの紬。だけど彼女は彼女で、平良さんと同棲してから「二人で譲り合っていく」ことに悩んでいる。
平良さんは結局、きっかと同じで仕事人間。
好きな時に仕事したいし、自分のために時間を使いたいし、没頭したら周囲のことを忘れてしまう。
経済的な格差から、相手に合わせるべきは自分だと思っている紬だけど、果たしてそれは正解なのだろうか。
確かに経済的な援助はものすごく気前良くしてくれるし、支えてもくれる。でもそれは平良さんにとって、簡単に差し出せるものではないだろうか。
さらに話は紬と鹿西さんの「結婚という価値観」の話にもつながっていく。
あまり友達の描写がない「おひとりさま」でも平気なタイプの紬が、歳の離れた女性「鹿西」さんと腹を割って女子トークするのも面白いです。年齢や立場などを気にせず、ポンと飛び越えて仲良くなれてしまうのも二人の良さですね。
彼女たちは二人とも自立しているというのが共通ポイントです。
業界人が集まるパーティに連れていってくれたり、人脈を広げる手助けをしてくれる平良さん。
そこで、「紬」という着物は育てる着物なんだという話が出ます。
紬ってね
織り上がったばかりの最初はけっこう硬いんだ
でも長く着れば着るほど柔らかくなって着心地よくなるの
その人だけの体に合った生地に育っていくんだよ
ふわふわになるまで変化しながら
その人の生活に寄り添う
そういう着物なんだ
それを聞いた平良さんは「すごくいいな」と感銘をうける。
さらに話はもりあがります。一緒にいた監督の妻が言います。
あたしは育てるって感覚とは違うわ
長く愛して着てれば
勝手に紬が馴染んで
変化してくってカンジ
それを聞いてさらに嬉しくなる平良さん。そう、着物の紬の特性と、きっか(紬)のことを重ねているんですね。
平良さんにとってきっかは「長く愛して着てれば 勝手に紬が馴染んで変化してく」ものであってほしい。
つまりは、紬(きっか)が自分に合わせて変化してくれることを望んでるとも捉えられるじゃないですか。
平良さんは「柔軟でいてくれるきっか」「許してくれるきっか」を求めているのは明白です。
そして、重い空気が大嫌いですぐ逃げたくなるマンの平良さんにとって、楽天的で明るい空気やしゃべりやすい雰囲気にしてくれるきっかは、理想の癒しだとも言える。
9巻でお互いに夢を語り合い、平良さんの大きなスケールに合わせよう、可愛くいよう、努力しなきゃと思ってきたきっかですが
ここにきて本当の自分の望みは違うんだ、ということに気づきます。
本気の話し合いをする時が来た。そんな10巻。
全体としては真霜くんの愛の深さに涙し、平良さんときっかの行く末に影が見える、そんなドラマチックな1冊でした。
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